ごった

色々書きます

 十二国記の「白銀の墟 玄の月」の3・4巻をようやく読み終わった。わたしの先月の予想は全く当たっていなかったね、ははは。

 

白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記 (新潮文庫)

白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記 (新潮文庫)

 
白銀の墟 玄の月 第四巻 十二国記 (新潮文庫)

白銀の墟 玄の月 第四巻 十二国記 (新潮文庫)

 

 



 とりあえずざっと書く。あとでちょっとずつ書き足すと思う。

 読み終わって最初に思ったのは、絶対項梁と英章さまの短編が来るよね?ってことだった。あまりに出番が少ない……。登場も遅いし。あんなにかっこよく「私は逃げる」と言った英章なのに。いや肝心なときにね、間に合ったからいいんだけどね。その為に地下に潜ってたんだもんね。だけどここへ来て項梁がしくじるわけ無いのに(しくじったら描写あるはず)全く馬州への道程が描かれないから、もう本当に焦らされた。紙面の関係で割愛されたのだろうか。いや描いてあると刑場での盛り上がりを欠くか。

 次に出る短編集に驍宗さまと泰麒の後日談があるといいな。延と景の戴訪問や阿選との最終対決も見たい。

 

  泰麒は信用できる人物から一度は李斎さえも外して思考している。だけど驍宗様が王である、ということだけは確信している。泰麒の多くの冷徹な思考と一つの直感というバランスがなんとも読んでいて不安だったな。驍宗様が王、というのは事実として確かなのだけれど、強調されればされるだけ疑念が頭をもたげるというかね。心配性だから。

 驍宗様が王と断言する泰麒をみるとちょっと感慨深い。蓬山で驍宗を王に選定したとき泰麒は大変罪悪感を抱いていた。使令を下して自分は人では無いと分かった後だったのに、自身の麒麟としての行動に自信がなかった。それが今作は角を欠いていても驍宗が王であることに迷いが無い。まあ迷われても困るけれども、大きくなったなと。泰麒と再会した者が思うことを私も思ったわけだ。

 

 六寝に侵入して阿選に政をするよう説得する泰麒は、なんだか阿選の麒麟みたいだと思った。沈む前の王朝で、政を放り投げた王に麒麟はこうやって接するのかな。この時の「序列の秩序を回復するためにな!」(3巻pp.54)という台詞がかっこいいね。

 この辺りの阿選はなんだかかっこいいというか、阿選麾下の気持ちも分かると思える人物だった。阿選は自分のしていることを分かっているから、自分に天意があるわけ無いと知っている。罪の自覚があるからどんな泰麒の言動でも救われないし(たとえ自分の仕向けたものでも)、麾下にも謀反の肝心なところを見せないでいた。阿選も孤独よね。驍宗の陰というよりも、阿選の中の光と陰の部分が強烈だったかな。

 だけど驍宗が蘇ってから完全に阿選は「陰」になってしまったような気がする。阿選に様付けするくらいには好きになったから、帰泉を傀儡にしたあたりは辛かったな。阿選の中の矩をとうとう超えてしまった訳だから。まあ謀反の時点でルビコン川を渡っているんだけどね。でもなんというか悲しいけど嫌いになれない、魅力あるキャラクターだと思う。正直阿選様かっこいい......と何度か思った。一段上に書いたような部分もあったし、怜悧だし、「出るかな、本当に?」(4巻pp.310)といった口調とか、短髪ビジュアルとかね!理に反した人物なのも分かっているし、かなり恐怖の対象でもあったけどね。黄袍館の庭に現れた時は声にならない悲鳴が出たわ。泰麒を驍宗の下僕扱いしたのはインパクトが強かったわ。

 

 阿選様好き~かっこいい~とたわけていたわけだが、まあ余裕で驍宗様が上回っていったよね。驍宗様って出来すぎ君か何かかね?驍宗を端から仰ぐ人々と違って、途中まで並び立っていた阿選は苦しいだろうな。

 驍宗様が地の文にちゃんと登場したときのメモに「ウラ――(ypa:万歳)、アーアーアーアー、Yeahhhhh!!」と走り書きしている。相当興奮していたことがわかるね。

 驍宗様の民への責任を果たそうとする姿に、その諸々の行動に、これが王かと思わされた。驍宗様はピーチ姫状態だと思いこんでいて本当に申し訳ない。よく考えれば無為に過ごしているわけないね。でもまさか祀まで行っているとはね。何もかもが慮外だった。驍宗様が苦労している描写って今まであまりなかったから(傑物扱いだからかな)、骨折治したり穴掘ったりっていう地道な行動を重ねていたのにグッときたな。孤独に頑張っていたのは泰麒や李斎だけじゃなく驍宗様もだったのね。騶虞を抱き寄せる驍宗様から孤独の辛苦を感じたね。というか王様って一人サバイバルが出来ることが条件だったりする?

 「風の海」で黄海で騶虞を狩ろうとする場面があるが、あのときの泰麒と驍宗様の会話が好きなんだよね。だから4巻でその場面への驍宗の回想があって、もうこんなん泣いてしまうやんと思った。驍宗様の泰麒への心と(多分戴の麒麟だからというのもあったと思うけど)、それは古い記憶で泰麒の幼い姿しか分からないという現実とに胸がつまった。 王と麒麟が離れていることは双方にとって不幸なことだわ。

 

 驍宗の雁へ行かない決断に、泰麒の安全な金波宮を離れ戴に戻らなくては、という言動を重ねてしまうよね。周囲の者は主に安全な場所へいてほしいと思う、だけど責任ある者は果たすべき事柄を把握している。Noblesse oblige!

 

  驍宗と泰麒の再会シーンには涙がにじんだ。麒麟と王の関係は無二であるという根幹があるから胸を熱くさせられるよね。泰麒を「蒿里」と呼ぶのは驍宗様しか居られないのよ! 二人とも民とお互いを救うという道を見失わないのがいいね。というかね麒麟は王のためにあって、王は麒麟を労い麒麟の出来ない汚れ仕事を引き受けるのがね、好きなんだー!片割れの出来ないことを代行するのがいい。だから今回は捕縛されている王に代って麒麟自らが殺生したわけだけど、泰麒が驍宗を守るために尋常で無い行動を取るのに気持ちが昂ぶるよね。このときの「戴の血脈」云々が驍宗様の泰麒への評価なのかしら。この「戴の血脈」が映る眼差しは、泰麒と驍宗どちらをも含んでいるように読めたな。まあとにかく4巻pp.384-386でね、これ以上のことは無いって私は思いましたですよ。

 泰麒は麒麟だけど、麒麟という性質のものから血が離れないし、王以外への叩頭礼があった。こういうのから見て性質を意思の力で超えるというか、ある意味での己の欠落部分に耐えるということが頭に浮かんだ。驍宗様だって性急すぎる性格だけれども、山の下に八年いて結局朝を整えるのにはもっと時を要したと思う。それぞれの不足を埋めるというか、克己ということにあたるのかなあとちょっと思った。

 

  麒麟の使令についてはちょっと欺瞞じゃないかと以前思ったことがある。f:id:hanashimako:20191116023444j:imageだから六寝に侵入したときそれについて触れてあって驚いた。だけど、使令を持たない麒麟が実際にどうするかとかは考えなかった。まさかねえ。麒麟の殺人とはねえ。

 

 玄管は琅燦だった、ということでいいのかな。はっきりは書かれてなかったよね?でも王宮内で自由に動けるものは少ないし、玄は冬を表すから(元)冬官長なのかなーと。玄菅の言った李斎には生きていてもらわねば、というのはどういう意味だったのかな。 ……読み返してみたら4巻pp.375で玄管は殿内の隅の暗がり、琅燦は殿の柱のそば、玉台の下の暗がりにいる。そして両者とも正面の開扉をみている。よく分からんな。

 気になるのは琅燦の処遇だなあ。琅燦は琅燦の理屈と親驍宗の立場で動いていたわけだけど、琅燦のしたことは罪の教唆と幇助になると思う。これは見逃すことのできるものなのかな。黄朱への認識がかなり曖昧だから、国の臣下になることが可能なのかとか、技の流出はいいのかとか、他も含めて色々よく分からない。犬狼真君のようなつかめなさだわ。......黄朱は恩義に厚いらしい(3巻pp.182)。琅燦は個人としての驍宗を主とし尊敬しているけれど、この阿選謀反はかなり危険だったような気がする。win-winのような気がするけど、どういう関係なのだろう。

 

 驍宗様と阿選の外見年齢はどれくらいで、いつ頃から生きているのだろうな。二四歳で大学を終えて旅帥に抜擢(3巻pp.60)とあるから、それに下野していた三年(だったっけ?)を加えて二七歳くらいなのかな。旅帥が仙籍だとしたらの話だけど。阿選は二六歳か......。なんだか不老の外見年齢と行動とイメージがかみ合わないな。

 驕王の治世は一二〇年くらいだが、多分昇山できる年齢だったらしてるだろうからそれよりは若い(と思う)。下野は才王の昇山と同時期だから、轍囲の方が先か。轍囲の件は三・四世代くらい前(だっけ?)だけど、一世代二五年とすると、驍宗と阿選は百年くらい前の生まれなのかな?......琅燦は驍宗麾下の古株だとあったような気がするけど、いつ出会ったんだ?轍囲のときには今の驍宗麾下は結構いた気がするけど。

 

 延のフットワークの軽さや度量の広さはいいね。なんか清涼な風が吹きました。あんたが大将!
 一二巻の時も思ったけど、意外と驕王の名前がよく出てきたな。王になる前の過去が重要だったからだけど、民間も官も士も先王を含めた王に影響されるものだと再確認した感じだ。驍宗と尚隆の手合わせやその際に下賜された寒玉など、驕王のしたことも結構未来に遺っている。

 

追記 

 静之が最後に大きい働きが出来て良かったなあと思う。

 「よくやった。−−もう良い」のときの二人の体勢だけど、ファンアートを見ると皆さんそれぞれ違う想像をしていて面白い。私は泰麒が剣を右手でもってそれを左手で支えているのを、驍宗が後ろから右手を回して泰麒の手を開かせて、泰麒が見上げて目が合う感じなのかなーと思った。驍宗が泰麒の体を支える形になってるんじゃないかなと。(11.18)......剣だけでなく泰麒とその罪を含め引き受けたのかな。「麒麟、還る」って感じよねえ。はあ〜発売から2週間経ったけど、胸いっぱいで食が落ちたままだよもう。(11.23)

 阿選も「良くやった」って言ってるんだね(4巻,p220)!麾下に、同じ殺人の場面で!阿選は驍宗と似ているけれど、こうも違って聞こえるとは。阿選が影なのだとしたら、それは驍宗の負の部分なのだよね。正負・光陰に分かれているけれど、驍宗と阿選は一つのものの側面なのじゃないのかな。ゲド戦記的な感じで。(11.30)

 

 三巻十八章を読み返すに、なんていうか驍宗は王でありたかったんだね。だから何だって感じだけど。王が何であるかを知っているんだな。

 そしてこれこそどうでも良いことだけど、私は別離や再会のシチュエーションが好きなのかも。(11.19)

 

 主公と麾下の関係かあ。ただ一人の主公、ただ一人の王。泰麒も驍宗の麾下と呼んでもいいような働きをしたね。仮にだけど、阿選が表に出て政をちゃんとしていたら阿選麾下は離れなくて、阿選の天下だったのかな。まあ続かないか。謀反をしては謀反前の阿選は居なくなってしまうものね。(11.19)

 

 驍宗さまは天を認めているんだよね。生粋のあの世界の住人だからか、7年の間の変化なのかどうかは分からないけど。地位や能力が上位の者が己よりも上位のもの(不条理なもの)を認めるのは、阿選を見る通りむずかしいわけで、登極者にとっては何か叶わないものを得ることは大事な気がする。うーん何が言いたいんだ?陽子や李斎との天に対する認識の齟齬を読んでみたいような。

 武人の驍宗様はああ見えて武断政治ではなく徳治主義というか哲人政治っぽいよね。才は革命政府っぽいし、奏は三頭政治とかのローマっぽいかなあ。(11.25)

 

 驍宗さまはやはり一度死んだのだろうなと思う。豊穣のための死というか、ペルセポネは冬には冥府へ降りる必要があるような感じで。死の先には再生があって、永い春や実りを得るための、そのための戴の7年間だったのかなと。まあなんで即位半年で、と思うけれど驍宗様100年近く(多分)生きてるからね。泰麒にとっても通過儀礼の年齢あたりだし。(11.29)

 

 驍宗さまを選んだことに後悔はない、という泰麒の言葉(pp355,4巻)は阿選の「驍宗を選んだお前が悪い。(中略)それを後悔して生きることになる」(pp230)に答えてるのね。なるほどー。

 ところで「阿選は平静を装って立つ泰麒を見つめた」(pp230)とあるけど、これ読点がないから読み方は色々可能だね。最初は平静を装う泰麒と読んだけど、阿選は平静を装って、立つ泰麒を見つめたも有りかなと。阿選のキーワード「驍宗を選んだお前が悪い」と大きな感情の吐露の場面だからね。まあ多分前者の読みが普通だろうけど。(12.18)

 

 驍宗さまの髪って白だから不吉な色なんだなあと今更気づいた。容姿の印象も死に近いんだね。いやそれとも雪梅か?雪に耐えて梅花麗しか?(12.23)

 

 ただ悪人で終わるなら悪人に筆を割く意味はない気がする。その悪になんらかの価値なり救いなり(時によっては聖性)が与えられているのじゃ無いかと思う。だから阿選は民を虐げたからダメというのはなんか違う気がするというか、理由として陳腐に感じてしまう。うーん。

 阿選と斡由の印象の違いは描写の量の違いなのかな。(1.16)